ブロックチェーン技術に触れていると、「EVM」という言葉を目にすることがあるかもしれませんね。
実はこのEVM、ブロックチェーンの世界でとても大切な役割を担っているんです。
この記事では、そんな「EVMのしくみ」について、一緒に見ていきましょう。
専門的なお話も出てきますが、できるだけイメージしやすいように、そして楽しく学べるように、EVMの内側をのぞいてみたいと思います。
EVMって一体なんだろう? ブロックチェーンを動かすエンジン
まず、「EVMって何?」というところからお話ししますね。
EVMは「イーサリアム仮想マシン(Ethereum Virtual Machine)」の略なんです。
イーサリアムという言葉は、耳にしたことがある方も多いかもしれません。
EVMは、このイーサリアムや、他の多くのブロックチェーンネットワークで使われている「スマートコントラクト」というプログラムを動かすための、いわばエンジンのようなものです。
EVMが果たしている基本的な役割
EVMは、ただの計算機ではありません。
世界中に散らばるたくさんのコンピューター(ノード)が、みんなで同じ計算を、同じように行うことで成り立っている、ちょっと特別なコンピューター環境なんです。
このEVMがあるおかげで、イーサリアムは単にデジタルな情報を記録するだけでなく、複雑なルールや約束事を自動で実行できる、賢いプラットフォームになることができました。
私たちの生活で使われている自動販売機を想像してみてください。
お金を入れてボタンを押すと、決まった商品が出てきますよね。
スマートコントラクトも、あらかじめ決められたルール通りに、自動で処理を行ってくれるプログラムなんです。
EVMは、このスマートコントラクトが正しく動くための舞台を提供している、というイメージですね。
EVMを支える大切な特徴
EVMが安定して、そして信頼されて使われているのには、いくつかの大切な特徴があるからです。
一つ目は、「分散型」であること。
特定の誰かが管理しているわけではなく、たくさんのコンピューターが協力して動いているので、とても丈夫で、外部からの圧力にも強いんです。
二つ目は、「決定論的」であること。
これは、同じ条件で同じ操作をすれば、誰がどこでEVMを動かしても、必ず同じ結果になる、という意味です。
みんなが同じ結果になるからこそ、安心して使うことができるんですね。
三つ目は、「チューリング完全」であること。
ちょっと難しい言葉ですが、これは理論上、EVMが一般的なコンピューターと同じように、どんな計算でもできる能力を持っている、ということです。
だから、開発者さんたちは、とても複雑なスマートコントラクトも作ることができるんです。
そして四つ目は、「サンドボックス化された実行環境」であること。
EVMの中で行われる処理は、他のシステムから隔離されています。
もし、万が一よくないプログラムが動いたとしても、他の場所に影響が出ないように守られているんですね。
これらの特徴があるからこそ、EVMは信頼できるシステムとして、多くの場面で活躍しているんです。
EVMはどんな構造? エンジンの部品をみてみよう
EVMがどのように動いているのかを理解するために、少しだけEVMの内部構造、つまり「しくみ」について触れてみましょう。
EVMは、「スタックベース」という考え方で作られています。
これは、計算するときに「スタック」という特別なデータ置き場を使う方法です。
机の上に本を積み上げていくのを想像してみてください。
新しい本は一番上に置きますし、本を取るときも一番上から取りますよね。
スタックもこれと似ていて、後から入れたデータを先に取り出す、というルールで動いています。
このスタックベースの設計は、比較的シンプルで、EVMが正確に動くために役立っています。
EVMを動かす部品たち オペコードとバイトコード
スマートコントラクトは、プログラマーさんが「Solidity」や「Vyper」といったプログラミング言語で書きます。
しかし、EVMはこれらの言語をそのまま理解することはできません。
そこで、人間が書いたコードを、EVMが理解できる言葉に翻訳する必要があります。
この翻訳されたものが「EVMバイトコード」と呼ばれ、さらにそのバイトコードは「オペコード」という細かい命令の集まりでできています。
オペコードは、「足し算をしなさい」「このデータをあそこに移動しなさい」といった、EVMに対する具体的な指示なんです。
たくさんの種類のオペコードがあって、これらを組み合わせることで、複雑なスマートコントラクトも動かすことができるんですね。
データをしまう3つの場所 スタック・メモリ・ストレージ
EVMが計算をしたり、情報を覚えておいたりするためには、データを置いておく場所が必要です。
主に3つの場所があります。
一つ目は、先ほども出てきた「スタック」です。
計算の途中で使う値を一時的に置いておく場所ですね。
二つ目は、「メモリ」です。
スマートコントラクトが動いている間だけ使われる、一時的な記憶スペースです。
作業机の上のスペースのようなイメージでしょうか。
処理が終わると、メモリの内容は消えてしまいます。
三つ目は、「ストレージ」です。
こちらは、ブロックチェーン上にデータを永続的に保存しておくための場所です。
一度ストレージに書き込まれた情報は、簡単には消えません。
大切な情報をしまっておく金庫のようなもの、と考えると分かりやすいかもしれませんね。
このストレージにデータを書き込むのは、他の二つに比べてコストがかかる、という特徴もあります。
計算の燃料 ガスって何だろう?
EVMでスマートコントラクトを実行するには、「ガス(Gas)」というものが必要になります。
これは、自動車がガソリンで走るように、EVMが計算処理を行うための燃料のようなものです。
ガスには二つの大切な役割があります。
一つは、計算の量に応じてコストを支払うことで、ネットワークの資源を公平に使うため。
もう一つは、無駄な処理や悪意のある攻撃によってネットワークが混み合ってしまうのを防ぐためです。
スマートコントラクトの処理が複雑で長くなるほど、たくさんのガスを消費します。
そして、トランザクション(取引や処理の要求)を早く処理してもらいたい場合は、ガス代を少し多めに支払う、といったことも行われます。
このガスの「しくみ」があることで、EVMは安定して動き続けることができるんですね。
EVMはどうやって動くの? トランザクション処理の旅
では、実際にEVMがスマートコントラクトを実行するとき、どのような流れで処理が進んでいくのでしょうか。
ユーザーさんが「暗号資産を送りたい」とか「スマートコントラクトのこの機能を使いたい」と思ったとき、それは「トランザクション」という形でネットワークに送られます。
このトランザクションがEVMに届き、処理されるまでの道のりを追いかけてみましょう。
トランザクション処理の流れ ネットワークを旅するデータ
まず、ユーザーさんはトランザクションの内容(誰に何をしたいか、どれくらいのガスを支払うかなど)を決めて、自分の秘密鍵でデジタル署名をします。
この署名は、「このトランザクションは確かに私が行いましたよ」という証明になります。
署名されたトランザクションは、イーサリアムなどのブロックチェーンネットワークに送信されます。
ネットワーク上のコンピューター(ノード)は、このトランザクションを受け取ると、まず基本的なチェックをします。
署名は正しいか、おかしな点はないか、などを確認するんですね。
問題がなければ、トランザクションは「トランザクションプール」という一時的な待機場所に入れられます。
次に、ブロックの作成者(マイナーやバリデーター)が、このプールの中からトランザクションを選び出し、新しいブロックにまとめて記録します。
どのトランザクションを選ぶかは、ガス代の高さなどが影響することがあります。
そして、この新しいブロックがネットワーク全体に認められると、ブロックに含まれているトランザクションが、EVMによって順番に実行されていく、という流れです。
スマートコントラクト実行のステップ EVMのお仕事
スマートコントラクトが実行されるとき、EVMはいくつかのステップでお仕事を進めます。
まず、実行するスマートコントラクトのバイトコード(EVMが理解できる命令)を読み込みます。
次に、現在のネットワークの状態や、そのスマートコントラクトが持っているデータ、利用できるガスの量などを確認して、実行の準備を整えます。
準備ができたら、EVMはバイトコードに書かれているオペコードを一つずつ順番に実行していきます。
足し算をしたり、データを保存したり、他のスマートコントラクトを呼び出したり、といった具体的な処理ですね。
オペコードを実行するたびに、ガスが消費されていきます。
もし、途中でガスが足りなくなってしまうと、「out of gas」というエラーが出て、処理は中断されます。
その場合、それまでに行った処理は元に戻されますが、消費した分のガス代は支払う必要があります。
無事に最後まで処理が終わると、スマートコントラクトによって行われた変更(例えば、誰かのアカウントの残高が変わったり、ストレージのデータが更新されたり)が、ブロックチェーンに永続的に記録されるのです。
この一連の流れが、EVMがスマートコントラクトを実行するときの「しくみ」なんですね。
EVMで開発するってどういうこと? プログラムを作る言語
EVMの上で動くスマートコントラクトは、特別なプログラミング言語を使って作られます。
これらの言語は、EVMが持つ独特の「しくみ」や特徴を考慮して設計されているんですよ。
ここでは、代表的な言語をいくつかご紹介しますね。
スマートコントラクトの言語たち SolidityとVyper
現在、EVM向けのスマートコントラクト開発で最もよく使われている言語の一つが「Solidity(ソリディティ)」です。
Solidityは、C++やJavaScriptといった、他のプログラミング言語に似た書き方をするのが特徴です。
たくさんの開発ツールや情報が揃っているので、多くの開発者さんに使われています。
有名なDeFi(分散型金融)のプロジェクトなどでも、Solidityが活躍しています。
もう一つ、注目されている言語に「Vyper(ヴァイパー)」があります。
Vyperは、Pythonというプログラミング言語に似た、シンプルで読みやすい書き方を目指して作られました。
特に、セキュリティやコードの分かりやすさを重視しているのが特徴です。
Solidityに比べて機能は少し絞られていますが、その分、間違いが起こりにくく、安全なスマートコントラクトを作りやすい、と考えられています。
どちらの言語も、EVMという同じ舞台で動くスマートコントラクトを作るためのものですが、設計の考え方や得意なことが少しずつ違います。
開発者さんは、作りたいものや重視する点に合わせて、これらの言語を選んでいるんですね。
EVMを取り巻く世界 互換性というキーワード
EVMはイーサリアムのために生まれましたが、その優れた「しくみ」は、他の多くのブロックチェーンプロジェクトにも影響を与えています。
「EVM互換」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは、EVMと仲良くできる、という意味合いで使われることが多いです。
EVMと仲良しなブロックチェーン EVM互換チェーン
EVM互換のブロックチェーンとは、簡単に言うと、イーサリアム用に作られたスマートコントラクトを、ほとんどそのまま動かすことができる他のブロックチェーンのことです。
つまり、EVMと同じような実行環境を持っているんですね。
これには、開発者さんにとって大きなメリットがあります。
一度イーサリアム用にスマートコントラクトを作れば、それを少し手直しするだけで、他のEVM互換チェーンでも使える可能性があるからです。
たくさんのチェーンで同じプログラムが動かせると、開発の効率も上がりますし、より多くの人にサービスを届けられるかもしれません。
Polygon、BNB Smart Chain、Avalanche C-Chainといったブロックチェーンは、EVM互換チェーンとして知られています。
これらのチェーンは、それぞれ独自の特色を持ちながらも、EVMという共通の土台を持っていることで、イーサリアムのエコシステム(経済圏や開発者コミュニティ)と繋がりやすくなっているんですね。
EVMの「しくみ」が、ブロックチェーンの世界全体の発展に貢献している、と言えるかもしれません。
EVMのこれから どう進化していくの?
EVMは、ブロックチェーン技術の発展とともに、これからも進化を続けていくと考えられています。
しかし、現状のEVMにも、いくつかの課題があることも知られています。
ここでは、EVMがこれからどのように変わっていくのか、その可能性について少し触れてみましょう。
EVMが抱えるこれからのこと スケーラビリティとコスト
EVM、特にイーサリアムメインネットで使われているEVMは、たくさんの人に利用されるようになった結果、時々処理が追いつかなくなったり、ガス代(手数料)がとても高くなってしまったりすることがありました。
これは「スケーラビリティの問題」と呼ばれています。
もっとたくさんのトランザクションを、もっと速く、もっと安く処理できるようになることが、EVMにとっての大きな課題の一つなんですね。
進化を続けるEVM レイヤー2や新しい技術
このスケーラビリティの問題などを解決するために、様々な新しい技術やアイデアが研究・開発されています。
その代表的なものが「レイヤー2スケーリングソリューション」です。
これは、イーサリアム本体(レイヤー1)の負担を減らすために、その上の層(レイヤー2)でたくさんの処理を行って、結果だけをレイヤー1に報告する、というような「しくみ」です。
ロールアップ(Optimistic RollupsやZK-Rollups)といった技術が、このレイヤー2の代表的なものです。
また、EVMそのものの性能を上げるための改良も検討されています。
「EVMオブジェクトフォーマット(EOF)」という提案は、EVMがバイトコードをより効率的に扱えるようにするためのものです。
さらに将来的には、EVMの根本的なアーキテクチャ(設計思想)を見直して、「RISC-V」という新しいタイプの命令セットアーキテクチャを取り入れる、といった大胆なアイデアも議論されています。
これらの取り組みは、EVMがこれからもブロックチェーン技術の中核として活躍し続けるために、とても大切なことなんですね。
まとめ EVMのしくみを知って広がるブロックチェーンの世界
ここまで、「EVMのしくみ」について、その基本的な役割から構造、動き方、そしてこれからの展望まで、一緒に見てきました。
EVMは、スマートコントラクトというプログラム可能な契約を実現し、分散型アプリケーション(dApps)が花開くための土壌を提供してきました。
その決定論的な動作や分散性といった特徴は、ブロックチェーンが信頼性の高いシステムとして機能するための基礎となっています。
EVMの世界は奥深く、常に新しい技術やアイデアが生まれています。
この記事が、EVMというブロックチェーンの心臓部とも言える技術に、少しでも親しみを感じていただくきっかけになれば、とても嬉しいです。
EVMの「しくみ」を理解することは、これからのデジタル社会の可能性を広げるための一歩になるかもしれませんね。
・スタックベースで動作し、オペコードという命令をガスを燃料として決定論的に処理します。
・データは、スタックやメモリ(一時的)とストレージ(永続的)の3領域で管理されます。
・Solidity等の言語で開発され、EVM互換チェーンによりそのエコシステムは拡大しています。
・スケーラビリティ等の課題に対し、レイヤー2技術や新技術の導入で進化を続けています。
【免責事項】
当記事は、ブロックチェーン技術およびイーサリアム仮想マシン(EVM)に関する一般的な情報提供を目的として作成されており、特定の金融商品や投資、技術の利用を推奨するものではありません。
また、記事の内容は、執筆時点の情報に基づいており、その正確性、完全性、最新性を保証するものではありません。
技術的な仕様や解釈は変更される可能性があるため、重要な判断を行う際には、必ずご自身で最新の情報を確認し、専門家にご相談ください。
当記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、執筆者および関係者は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。
【公式関連情報】
EVMに関する最も信頼性の高い公式情報は、イーサリアム財団の運営する公式サイト ethereum.org
から入手できます。
・Ethereum Virtual Machine (EVM)
イーサリアム公式サイト (日本語):https://ethereum.org/ja/developers/docs/evm/
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